ネット企業研究 アマゾン・コム
●原則 インターネットは多品種に向く。
●原則 インターネットはブランドに向く。
アマゾン・コム アマゾン・コムは、綺麗でない会社である。私がビジネスの
世界にいたとしても、アマゾン・コムのような会社は作らなかっただろう。まず、
本という物を売ること自体が、ピンとこなかったであろう。将来的には、本を売
るビジネス自体が縮小していく可能性がある。(もちろん、そうならない可能性
もあるが。)ネット上で情報コンテンツのみを売るようになる可能性がある。イ
ンターネットに親しみのある多くの人は、ネット上で情報コンテンツのみを売る
ことを考えるであろう。本を売ることは、何か不徹底な感じがするのである。
「アマゾン? 物を売る会社なんかに興味はないね。」といった感じである。
しかし、アマゾン・コムは成功した。不愉快である。しかし、負けを認めよう。
私が気づかなかった良さがアマゾン・コムにはあるだろう。アマゾン・コムは、
私に現実をよく見ることを教えてくれた。(現在、アマゾン・コムは苦しい状況
にある。これについては、稿を改めて論ずる。)
赤木昭夫氏は言う。
「客にとって魅力の第一は品揃えで、四五の部門に区分けされた二五〇万点あま
りのデータベースから望みの本を探せる。第二は推薦書で、先に挙げたが、アマ
ゾンの編集陣が内容紹介つきで常時五〇冊の新刊書を推薦する。「エディター
ズ・ノーティフィケーション・サービス」と称する。第三は「アイズ(眼)」で、
登録しておくと、客の好みの分野で新刊があると、それをEメールで送信してく
れる。第四は客の投稿した書評が紹介される。人気を集めるため、賞金一〇〇〇
ドルの「推薦コンテクスト」をウエッブ上で展開する。」〔『インターネット・
ビジネス論』岩波書店、1999年、26ページ〕
まず、第一に、アマゾンは「世界最大の書店」である。「二五〇万点」もの本
がある。それだけの本を街にある本屋に揃えることは不可能である。東京の巨大
書店八重洲ブックセンターでも四十万点である。現実の街にある本屋には、本を
店頭に展示するスペースが必要である。それに対して、アマゾンにはそのような
スペースが必要ない。ネット上ならば、何百万冊でも展示できる。
実は、先日、私は八重洲ブックセンターへ行った。宇佐美寛『大学の授業』
(東信堂)を買いにである。しかし、無かった。八重洲ブックセンターに無いな
らば、街の普通の本屋では絶対に無いであろう。しかし、アマゾンならば、この
ような本も有るのである。
●原則 インターネットは多品種に向く。
現実の店では、商品の数が店のスペースに制限される。ネット上ではそのよう
な制限がない。だから、インターネットは多品種に向く。
もう一つ、重要な原則がある。これは、あまり論じられていない。
●原則 インターネットはブランドに向く。
本は、ブランド商品である。先の本を私が買いに行ったのは、なぜか。私は、
本の中身を見る前から、その本を購入することを決めていた。なぜ、見なくても
決められたのか。宇佐美寛氏の本だからである。既に、私は、宇佐美氏の本を何
冊も読んでいる。その素晴らしさをよく知っている。だから、新しく出版された
本の中身を確かめなくても、素晴らしい本であることは容易に想定できるのであ
る。
読書人ならば、〈この著者の著作は全て買う〉という著者が何人かいるもので
ある。その著者は、読者にとってブランドとして機能しているのである。
「ブランド」とは、「個々の商品に先立って信頼が成立している状態」のこと
である。本は、まさしくそのようなブランド商品である。
ネット上の商品販売には難点がある。それは現物を手に取れないことである。
商品のよし悪しを判断しにくいのである。しかし、ブランド商品の場合、それは
問題にはならない。「個々の商品に先立って信頼が成立している」からである。
商品を手に取って判断する必要はない。よいに決まっているからである。
……〔続く〕……